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放射線施設における緊急時の対応



update 6th Oct. 1999


放射線施設における緊急時の対応について

緊急事態の分類と応急処置の手順−熊本大学版−
通報手順−KRI版−


1.事故の定義
 放射線の事故とは、放射線源が制御不能の状態になること、つまり線源を制御しようとしても制御できない状態または制御されていない状態をいう。これ等の事故は地震、火災その他の災害(浸水、停電等)や、盗難・紛失等の不測の事態及び誤操作等が原因となって発生する。

2.緊急事態の定義
 緊急事態とは、これ等の事故によって放射線源が制御不能のために、診療従事者等が著しく放射線にさらされまたは汚染されて、放射線障害が発生し、または発生するおそれの生じる状態をいう。

3.緊急事態の具体的な原因
(1)Ⅹ線撮影関係
  地震、火災その他の災害により、照射中に外部放射線に対する遮蔽物が破損し、照射を直ちに停止することが困難な場合。または、誤操作・誤動作により過剰の被曝が生じた場合。
(2)放射線利用関係
 ① 地震、火災その他の災害により、照射中に外部放射線に対する遮蔽物が破損し、照射を直ちに停止することが困難な場合。
 ② 線源が収納容器から脱落した場合。
 ③ 遠隔装置の故障により、線源を収納容器に収納することが不能な場合。
 ④ 線源が盗難、紛失により所在不明になった場合。
(3)核医学関係
 ① 地震、火災その他の災害により放射性物質の取扱中に外部放射線に対する遮蔽物が破損し、取扱いを直ちに停止することが困難な場合。
 ② 局所排気装置または発散源を密閉する設備の機能停止、及びそれによって著しく空気が汚染された場合。
 ③ 放射性医薬品が多量に漏れ、こぼれ、または散逸した場合。
 ④ 火災または類焼のおそれがある(放射性物質が蒸発、気化する)場合。
 ⑤ 線源が盗難、紛失により所在不明が明らかになった場合。
(4)その他
 ① 利用者が著しく放射線にさらされまたは汚染される不測の事態が生じた場合。

4.緊急事態の通報、届出、報告
 緊急事態が発生した場合は関係機関に通報、届出、報告しなければならない。
 法令で義務づけられているのは以下の通りである。
(1)医療法規則関係[第30条の25]
  地震、火災その他の災害または盗難、紛失その他により放射線障害が発生しまたは発生するおそれがある場合は、直ちにその旨を通報する。
 通報先:所轄の保健所、警察署、消防署、その他関係機関
(2)電離則関係[第43条]
  事故によって労働者が受ける実効線量当量が15mSvを超えるおそれがある区域が生じたときは、速やかにその旨を報告する。
 報告先:所轄労働基準監督署長
(3)人事院関係[人事院規則10−5第21条](国立の場合)
  以下の各号に該当する場合は、速やかにその旨を報告する。
 報告先:人事院長
 ① 放射線取扱施設内において外部放射線を遮蔽物が、放射性物質の取扱中に破損した場合または照射中に破損し、かつ、直ちにその照射を停止することが困難な場合。
 ② 作業室内に設けられた局所排気装置または発散源を密閉する設備が故障し、破損する等により空気が汚染された場合。
 ③ 放射性物質が多量に漏れ、こぼれ、または散逸した場合。
 ④ そのほか、著しく放射線にさらされ、または汚染される不測の事態が生じた場合。
(4)放射線障害防止法関係(発生装置、照射装置、照射器具、装備機器、校正用線源を使用している場合)
 ① 盗難、所在不明その他の事故が生じたときは、遅滞なくその旨を届け出る。
  届出先:警察署、海上保安官[法第32条]
 ② 地震その他の災害が起こったことにより放射線障害のおそれがある場合または発生した場合においては、直ちにその旨を通報し、遅滞なくそ の旨を届出る。
 通報先:警察官、海上保安官[法第33条]
 届出先:科学技術庁長官
③ 放射線取扱施設または輸送物に火災が起り、またはこれらに類焼のおそれがある場合には、その旨を通報する。
 通報先:消防署[規則第29条]
5.緊急事態の一般的な措置例
(1)先ず退避、通報、連絡
  放射線障害の防止のため、関係者及び付近に居る者に避難するよう警告し、退避させる。患者及び付添人等は安全な場所に避難誘導する。放射線障害を受けた者または受けたおそれがある者、その他負傷者は危険区域から速やかに救出する。
  (2)関係者に通報、連絡する。
 ① 当事者または発見者から放射線科関係者へ
   事務、技師長、安全管理者、利用者、放射線科部長、放射線科婦長等
 ② 放射線科から病院関係者へ
   事務、警務、患者の依頼診療科、病院長等
 ③ 病院関係者から病院外の関係機関へ
   保健所、労働基準監督著、警察署、消防署、科学技術庁、人事院、文部省等
(3)必要な措置をとる際の注意事項
 ① 事故関係者からその原因、発生状況、応急措置等を調査し、被害拡大のおそれの有無(放射線障害のおそれ、汚染拡大のおそれ等)を判断し、それに応じた必要な措置をとる。
 ② 実効線量当量が概ね15mSvを超えることが予想される緊急時危険区域は、標識等で表示し、緊急作業に従事する作業者以外を立ち入らせてはならない。立ち入る者については被曝線量当量を測定し、立入時間等を記録する。
 ③ 緊急時危険区域の外部線量当量、空気中濃度、表面汚染密度等を実測し、関係者の被曝線量当量を算出する。測定が困難な場合は関係者からの調査に基づいて推定する。
 ④ 事故の規模によっては、非常持出品に指定された物品を安全な場所に移動させる。
  緊急作業に必要器材を確保する。
  使用室等の鍵を確保する。
 ⑤ RI等を他の場所に移す余裕がある場合には、必要に応じてこれを安全な場所に移し、その周囲には縄を張りまたは標識を設け、かつ、放射線測定器を持った見張人を付けることにより、関係者以外の者が立ち入ることを禁止する。
 ⑥ 可燃物、引火物、爆発性薬品など危険物を事故現場から安全な場所に移す。
 ⑦ 緊急作業に関係した者で、放射線障害のおそれがある者については医師の診察を受けさせる。
(4)その終の処置
 ① 事故調査として事故、緊急事態に関する記録を作成し、整理する。
 ② 必要な関係機関に事故の報告、届出をする。
  発生日時、発生場所、発生の原因、事故の状況、とった措置の概要
 ③ 事故の起こった原因を追及し、再発防止策を請じる。

6.具体的な措置の例
(1)照射器具の紛失
  直ちに関係先に通報するとともに、使用記録に基づき使用した場所と当該区域から持ち出された物品等をサーベイする。廃棄物として処理されている可能性もあるので、廃棄関係箇所の調査測定も必要である。
  照射器具の紛失には、患者が関係することが多いので、患者からの事情聴取も必要である。
  日常から使用記録の整備と線源の確認及び患者教育が完全に行われていれば、この種の事故の発生は防止できる。
(2)照射装置の被損、故障による線源の制御不能
 当該使用室からの退避と立入禁止措置をとる。使用室外への放射線の漏洩は少ないと考えられるので、事故の復旧のためには時間的余裕がとれる。
(3)診療用RIによる汚染
 汚染された区域を明らかに表示し、その上で必要な汚染拡大防止及び除染措置をとる。汚染除去作業のために二次汚染が生じないように注意する必要がある。汚染区域からの人、物品の移動時に汚染検査を行うことが必要である。
 放射性物質が多量に漏れ、こばれ、散逸した場合は速やかにその広がりの防止及び除染を行う。液体なら濾紙等で吸い取る。粉末なら濡らして、濾紙等で吸い取る。表面をビニール等で覆うなどが有効である。
(4)局所排気装置の故障
  放射性物質を密閉できる容器に収納する。
(5)利用者等に異常被曝が発見された場合
  本人からの事情聴取とともに、その程度に応じて
①医学的サーベイランス、
②推定される線源に関する特殊モニタリングを行う。

7.平素の対策
(1)起こり得ると想定される事故の原因と考えられるあらゆる要因を除去するよう施設、設備面の安全の点検、確保に努める。
(2)利用者、技師、看護婦その他の職員に安全取扱いの教育、訓練を徹底しておく。
(3)防護器材等必要な器材の所在、及び保守管理を含む使用方法を習得しておく。
(4)事故時の行動要綱を作成し、関係者全員が理解しておく。
(5)通常の勤務時間以外の夜間、休日等の際の非常呼集、応援援助対策は確立しておく必要がある。
(参考)事故防止と緊急時対応の手引一放射性同位元素使用事業所のために−」(1989)
放射線障害防止中央協議会編集

*** FAQ ***

問1 放射線障害のおそれについて
 (1)現に使用していなければ外部被曝のおそれが無いのは次の場合である。
   ① Ⅹ線装置、発生装置
     電源が切れていれば放射線は発生していない。
   ② 照射装置、照射器具、装備機器
    鉛製貯蔵容器により遮蔽されているか、使用室の入口が甲種防火戸になっている。
   ③ 診療用RI
    入口が甲種防火戸になっている貯蔵室に入っているので、内部から火災が発生しなければ安全である。
   ④ 放射性廃棄物
    入口が甲種防火戸になっている廃棄物貯蔵室で、廃棄物容器に入っているので、内部から火災が発生しなければ安全である。
 (2)火災の際に外部被曝または内部被曝のおそれが有るのは次の場合である。
   ① 照射装置、照射器具、装備機器
    高温が長時間になり、鉛材が熔解すると遮蔽効果が少なくなる。
   ② 診療用RI、放射性廃棄物
    気化した化合物、可燃物の空気を吸入すると内部被曝する。
 (3)取扱中に事故が発生し、外部被曝及び内部被曝のおそれが有るのは次の場合である。
   ① 発生装置、照射装置、照射器具
    外部被曝防止のための遮蔽物が破損し、しかも照射を直ちに停止することができない。
   ② 診療用RI
    局所排気装置または発生源を密閉する装置の故障により、空気が汚染された。
    放射性物質が多量に洩れ、こぼれ、散逸した。
    火災により放射性医薬品、廃棄物が蒸発、気化した。
 (4)線源が盗難・紛失等により所在不明になった場合は、利用者のみでなく、一般公衆にも放射線障害のおそれが有る。

問2 消火活動について
 (1)消防署への通報は「放射線施設の火災です」と明言する。
 (2)Ⅹ線装置等は高圧電源を用いる精密電子機器なので、消火は棒状水ではなくて窒息性の消火設備を用いたほうが機械の被害は少ない。
 (3)窒息性ガスを消火に用いる場合や、大量の放射性物質が気化しているおそれがある場合は、消火活動に従事する者は自給式呼吸保護具を用いる。
 (4)消火後水、灰等の汚染状況を測定し、必要な除染措置をとる。
 (5)Ⅹ線撮影フィルムは可燃性なので、延焼しないように十分な防火措置をとる。

問3 非常時持出品について
 (1)事業所により非常持出品の指定は異なるが、放射線関係で滅失する事が望ましくない記録は以下の書類である。
  ① 照射録
  ② 利用者の健康診断記録、被曝線量当量記録
  ③ 放射性物質の購入、貯蔵、使用、廃棄の記録等
  ④ 線量当量率測定記録、汚染状況測定記録等
 (2)サーベイメータ等緊急作業に必要な器材は、常に使用できる必要がある。以下の物は日常でも使用するが、緊急時必要器材として直ぐに使えるように、関係施設の安全な場所に保管しておいた方がよい。
  ① 放射線測定用具:サーベイメータ、スミア用具等
  ② 被曝線量当量測定用具:ポケット線量計、TLD等
  ③ 防護衣:プロテクタ、アノラック、帽子、マスク、手袋、長靴等
  ④ 防護具:トング、鉛ブロック、砂袋等
  ⑤ 除染廃棄用具:トング、ピンセット、ウェス、ベーパタオル、濾紙、綿球、ビニール袋、廃棄物容器等
  ⑥ 筆記用具
  ⑦ 標識等:黒黄色ロープ、立入禁止標識等
  ⑧ その他:懐中電灯、担架、工具等

問4 事故の通報・届出・報告について
 (1)通報、届出、報告する事故の状態と時期、連格先は以下の通りである。
     (事故の状態)(時期)    (連格先)
  ① 通報 障害のおそれ 直ちに  保健所、警察署、消防署、
                  その他関係機関
      危険事態発見 直ちに  警察署、海上保安官
      火災     直ちに  消防署
      危険時等   速やかに 文部省(国立学校関係)
  ② 届出 事故届    遅滞なく 警察官、海上保安宮
      危険事態   遅滞なく 科学技術庁長官
  ③ 報告 危険区域発生 速やかに 労働基準監督署長
      障害者発生  速やかに 労働基準監督署長
      緊急時    速やかに 人事院長(国立関係)
 (2)連絡する事項は発生日時、発生場所、発生の原因、事故の状況、及び行った措置の概要である。
 (3)事態が終了してから遅くとも10日以内に関係機関に放射線障害発生の有無等を記載した事故報告書を提出する。
問5 時間外の事故について
 (1)利用者が少ない時間に事故が発生した場合は、人手が少ないので必要な措置をとる余裕が無いと思われる。事故現場から患者等関係者を退避させて、人身の安全保持を第一に図り、さらに、対策に必要な人員が集まるまでは周囲への被害の拡大防止に努める。
 (2)時間外では放射線利用及び核医学検査をすることは稀なので、放射線利用及び核医学検査関係施設に異常が生じた場合は、担当者を呼集し、担当者が到着するまでは内部に立ち入らずに、立入禁止区域を設定して、周囲への被害の拡大防止に努める。
 (3)Ⅹ線装置等は電源を切る。

問6 事故の想定
  放射線関係で想定される事故には以下のようなものがある。
 (1)人身事故:負傷、誤飲、誤吸入、ガス中毒による行動の自由の束縛等がある。
 (2)異常被曝:発生装置の不調、密封線源の遮蔽材の破損等による。
 (3)火災、爆発:放射線取扱施設内での発生、他からの類焼の危険等がある。
 (4)盗難、紛失:放射線源の盗難、紛失など所在不明や、施設内での物品の盗難及び盗難の際の施設の破壊等がある。
 (5)出水:汚染水及び非汚染系統の配水管、排水管からの漏水、溢水等がある。
 (6)ガス等:都市ガス、酸素ガス、麻酔ガス、真空系統の配管の破裂、洩れがある。
 (7)空調関係:給排気・空調の停止や局所排気装置の故障、停止等がある。
 (8)停電:停電、ヒューズ切、ブレーカ落(漏電、過電流、短絡、絶縁不良)により、使用していた機器の誤動作、逆流等が発生する。停電したら使用していた機器のスイッチは全部オフにすることが必要である。
 (9)地震:建造物の崩壊、遮蔽物の破損、入口扉の開閉不能及び戸棚等からの薬品、物品等の落下等がある。

問7 密封線源の所在不明について
  密封線源が盗まれたり、所在が不明である事が明らかになったときは、遅滞なく警察官に届け出る。届出をしないと、10万円以下の罰金がかせられる。〔放射線障害防止法第55条〕。警察は110番でなく、防犯課に届けるのがよい。同時に、利学技術庁の放射線安全課にも届ける。〔放射線障害防止法第42条〕
 届出がなされると、新聞などに公表されることもあるので報道対応も検討しておく。さらに、その状況とそれに対する処置を10日以内に科学技術庁長官宛てに報告書として提出することが必要である(報告の徴収)。報告は紛失した線源が発見されるまで定期的に行う。また、医療機関にあっては〔医療法規則第30条の25〕の「報告の徴収」の規定も適用されるので、保健所への届け出(知事、厚生大臣)も必要である。労働安全衛生法第100条にも、労働基準監督署長への報告が定められている。
 同様に消防署へも届け出ること。

問8 線源の紛失防止策について
  密封線源を使った後、確認して格納すれば紛失は起こり得ない。今までの紛失事故はすべてここに原因がある。紛失防止対策としては以下のこと実施すること。
 (1)目で見て確認すること。
 (2)使用後に測定器で汚れたガーゼなど処置に使ったものをサーベイすること。
 (3)そして、その旨を記録すること。
   リモート・アフターローダーなど機械的に線源が固定されていても、脱落が起こった例がありサーベイは必要である。シードやグレンなどの非常に小さな線源の場合、とくに事後のサーベイは重要である。
   具体的には、使用する利用者と線源の管理を行う人を分けて、ダブル・チェックのシステムを作り、また測定によるチェックも、使用室の入り口にエリア・モニタを設置するなど二重のシステムができることが望ましい。



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